十人目

ようやく外が明るくなりつつある時間、僕はひとり学校の校庭を歩いていた。今日は体育祭。運動神経の鈍い僕には苦痛なイベントだし、あーいうノリも苦手なので、この際サボってしまおうかと考えたが、今年で最後なので参加するのも悪くないだろう、と思い直したのだ。しかし、僕が学校に着いたのはやや遅刻気味な時間帯で、校庭では体育着を来た多くの生徒が準備に追われていた。僕も体育着に着替えるために、まずは教室へと向かった。

教室へ向かう途中、R や Y、A といった面々が走って僕を追い抜かしていった。僕は教室にたどり着くと、ドアを開けようとした。ガタン。そう音がして少し開いたかと思うと、次の瞬間、ドアは押しても引いてもびくともしなくなった。それでも何とかして開けようとしていると、中から Y の声が聞こえた。「そのドアは開かないぜ。」開かないのなら仕方がない、別のドアを使おう。ちょうどすぐ脇に A の立っている半開きのドアがあったので、そこから入ることにした。しかし、ドアを開けて中に入ってみると、教室内は机がまるで掃除中のように整理されていたので、僕の机にたどり着くにはこの入り口からでは大変なことがわかった。しょうがない、前の方の入り口から入ろう、と思い一度教室から出ようとすると、後ろから声がかけられた。「おい。」僕は振り返って声のした方を見た。R だ。表情を見ると、何やら怒っているらしい。どうやら僕がドアを開けた拍子に、何かのチェーンが彼に引っかかり、ずいぶんと痛い思いをしたようだった。ごめん、と僕は謝ったが、彼はそれでは気が済まなかったらしく、自分に起こったことを僕にしてみせた。なるほど、これは確かに痛かった。彼が怒るのも無理はなかった。

彼の気もそれで済んだようなので、僕は改めて前の方の入り口から教室へと入った。僕の机の位置を確認し、一直線にそちらへと向かった。すると突然、後ろでカサカサという物音が聞こえた。なんだろう?と振り返ると、そこにはロブスターのような形の、しかしその色は赤ではなく、おどろおどろしい黒地に黄色の縞模様の『何か』がいた。大きさもかなりある。そいつはカサカサと物音を立てながら、その大きさからは想像できないほど機敏な動きをみせていた。僕はびっくりして、うわっ、と少し声を出すと、近くにいた K がそれに気づいてこちらへと近づいてきた。「どうしたんだあ~?」僕は、そこに何かがいる!と伝えた。彼はそいつを確認し、次ににやりと笑ってみせると、そいつを親指と人差し指でつまみあげた。嫌な予感がする。次の瞬間、彼は僕に向かってそいつを投げつけた。僕は咄嗟に後ろに飛びのいたが、この狭い場所では逃げきれず、足にぶつかった感触が伝わる!すると、そいつは突然投げられて怒ったのか、僕の足の上をカサカサと這い回り・・・あああああ!