十一人目

頭上に光源を感じるが、それを確認することは叶わない─

真っ白なシーツを頭から足の先まで被り、手には灯りを燈した蝋燭を立てた蜀台、頭を垂らし、足を滑らせるように歩き、"Another Brick In The Wall (Part 2)" を斉唱する。それがいつから続いており、そしていつまで続くのかはわからない。まるで周りの景色のように頭の中にも霧がかかり、僕たちは疑うことを知らず、歩き、歌い続ける。

「走れ!」突然、誰かの声が響いた気がした。ハッとして顔をあげると、僕はシーツを脱ぎ、持っていた蜀台を放り投げ、一目散に走り出した。しかし、周りにいる皆はたった今までの僕と同じように、歩き、歌い続けていた。誰も僕を止める者はいなかった。

どこへ向かえばいいのかわからなかったが、何者かに導かれるかのように走りつづけた。ふと気が付くと、僕は今までと全く違う景色の前に立っていた。壁の代わりにアーチで覆われていた回廊は、気味の悪い立体的な縞模様の壁に包まれた通路 ─まるでチューブの中にいるような─ となり、上り階段 (所によりエスカレーター) が見えなくなるまで続いていた。人の影は一つもなく、合唱の声もとうに聴こえなくなっていた。

意を決して通路の中を進んでいくと、端々に倒れた子供の姿が見られるようになってきた。ここまでは何とか来られたが、ついに力尽きてしまったのだろうか。中には全裸の子供や (あるいは僕もそうなのかもしれない)、兄弟なのか親友なのか、二人抱き合って眠るように倒れている子供もいた。僕もこうなってしまうのだろうか?内心恐れを抱きつつも、ただひたすら階段を登りつづけた。

すると、突然、明るく開けた部屋に出た。そこには、僕より先に辿りついたのだろうか、子供が10人いた。彼らは僕の方を見ると、訝しそうに眉を潜め、ぼそぼそと話し合った。その様子をよく見ていると、どうやら彼らは二人ずつのペアになっているようだった。話し合いが終わると、彼らは口でこそ何も言わなかったものの、目で僕のことを非難した。僕は居た堪れなくなり、その場を後にすることにした。結局のところ、僕にはここにいる資格がなかったのだ。

ただ一度だけ振り返ると、彼らが大人たちに連れられて奥の部屋へと入っていくところが見えた。そして、彼らの中で一人だけ、同じようにこちらを振り返った子供と目が合った。お前たち、お願いだから、僕のようにはなるんじゃないぜ。

─辺りは深い霧に包まれていた。